日本物理学会誌

第75巻 第10号

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■表紙の説明
核分裂片質量分布は,原子核の内部構造や反応機構を解き明かす鍵となるだけでなく,放射性廃棄物の処理やrプロセスによる元素合成にも深く関わっており多くの情報を含んでいる.二つの分裂片の質量が等しい(対称分裂)か,異なるか(非対称分裂)は核分裂の発見当初から話題の一つであった.フェルミウム(原子番号100)では,フェルミウム257から258へと中性子が1個増えるだけで非対称分裂から対称分裂へと分裂様式が大きく変わることが知られ,その理由は長年謎とされていた.この謎を解くため,原子核の形状を定義し,それぞれの形状に対して殻構造を取り入れたポテンシャルエネルギー面を求め,さらに動力学模型によってポテンシャル上を動く軌道を計算した.表紙の図はフェルミウムの変形空間におけるポテンシャルエネルギー平面とその上を動く軌道を示したもの.軌道は原子核の形状の時間発展に対応する.詳細は本号に掲載されている有友嘉浩氏らの「最近の研究から」記事を参照のこと.

*印の記事については,マイページでサプルメンタルマテリアルを掲載しています.

■巻頭言
ノーベル賞の夜  石橋延幸 ...... 605

■現代物理のキーワード
スキルミオン――60年の進展 (Keyword: スキルミオン)
岡 真 ...... 608

■解 説
超伝導回路を用いた量子計算機の研究を理解するための基礎知識  山本 剛 ...... 610

■最近の研究から
準結晶の成長機構の謎にせまる*   枝川圭一 ...... 619
二次元有機導体の超伝導発現機構  渡部 洋,妹尾仁嗣,柚木清司 ...... 625
フェルミウム原子核で起きるユニークな核分裂――動力学模型の視点から
有友嘉浩,宮本裕也,西尾勝久 ...... 631


■物理教育は今
国際物理オリンピック過去問シリーズ:
落ちないばねの不思議――国際物理オリンピック2019の理論問題  東辻浩夫 ...... 637

■JPSJの最近の注目論文から
6月の編集委員会より  宮下精二 ...... 641

■歴史の小径
早川幸男の生涯と物理――素粒子現象論から宇宙物理へ  早川尚男 ...... 644

■ラ・トッカータ
ゼミ本シリーズ:An Introduction to Quantum Field Theory  原田正康,野中千穂 ...... 648

■学界ニュース
第40回猿橋賞:市川温子氏  中家 剛 ...... 650

■新著紹介 ...... 651
ペロブスカイト物質の科学;万能材料の構造と機能:桑原英樹
マクスウェル方程式から始める電磁気学:多田 司