会長メッセージ
今期(第75期、2019年3月31日〜)より会長を務めることとなりました永江知文と申します。会長就任にあたりご挨拶を述べさせていただきます。私の専門は原子核物理学の実験分野の研究です。素粒子・原子核・宇宙分野から会長となるのは、第66期の永宮正治先生以来になります。
日本物理学会は140年以上の伝統ある学術研究団体であり、物理学という広い分野にまたがった基礎科学の進歩と普及に向けて活動しています。この間、狭い分野に分かれること無く、物理学という一つの学問分野を標榜してきました。約16,000名の会員数は、そのような歴史の賜物です。我が国の数ある学術研究団体のなかでも大きな学会といえます。21世紀を通じて基礎科学分野を牽引する一翼を担っていかねばなりません。
日本物理学会は、会員に向けた邦文誌である日本物理学会誌を毎月発行するとともに、2つの欧文誌JPSJ(Journal of the Physical Society of Japan)とPTEP(Progress of Theoretical and Experimental Physics)を発行しています。加えてJPS Conference Proceedingsシリーズも2014年に発刊しました。JPSJについては、海外での機関購読者数の減少を受けて、AIPP(AIP Publishing)と今年から販売提携が始まりました。PTEPはOUP(Oxford University Press)に2012年より業務委託し、オープンアクセスジャーナルとしてPTPを引き継いで再出発を切りました。海外大手出版社との競争も激しい中、伝統ある雑誌の躍進のため努力していきたいと思います。
日本物理学会の収入は学会員の皆様からの年会費と大会参加費による収入に大きく依存しています。このため、今世紀になって漸減が続く会員数の現状を顧みるに、早めに財政基盤の強化に手をうつことが長期的な活動の継続に向けて必要です。2016会計年度には、会費値上げを行いましたし、その後、大会参加費の値上げもお願いしてきました。お陰で一時的に改善傾向は見て取れます。しかし大会開催費用については、開催場所の大学からの会場費の請求が、大学の法人化以降、高額となってきている傾向にあり懸念材料です。
そこで、いくつかの新しい取り組みとして、2017年度には、会友制度を立ち上げ、大学院卒業後にも物理学会との関係が継続しやすいようにしました。これからも継続的に呼びかけを行い、メールマガジン等のサービスを充実させていきたいと考えています。また、会友の枠も大学生や高校生へと拡充することも検討事項です。年次大会時に行っている高校生を中心とするJr.セッションの熱気が、明日の日本物理学会を後押ししてくれるものと期待しています。また、2019年からは、従来実施している科学セミナー、一般向け講演会やJr.セッション、キャリア支援などを含む「次世代人材育成プロジェクト」という事業枠を立ち上げて、一般からの寄付を受け入れる体制を整備しました。この事業の支援のために少額からの寄付を受け易くなるようにしています。このプロジェクトを通じて、物理学会からの研究成果の一般社会への情報発信、産業界への還元などをより活性化するとともに、物理系人材の社会への進出を促したいと考えています。
日本物理学会と海外の学術団体との交流も盛んになってきました。2018年には、日本物理学会としては12番目となる相互協力協定をカナダ物理学会(Canadian Associatiion of Physicists)との間に締結しました。今後、合同セッションなどの企画・交流が進むことが期待されます。また、アジア太平洋地域ではAAPPS (Association of Asia Pacific Physics Societies)のメンバーとして活動しています。現在、AAPPSには、プラズマ物理、原子核物理、天文・宇宙・重力の3つのディビジョンが設立されていますが、これを拡張することが企画されています。AAPPSの財政基盤と組織体制の整備が急務であり、日本物理学会による舵取りが重要となりそうです。
21世紀の半ばに向かおうとする今、日本物理学会が国内での様々な学協会との連携を深め、現代的な新しい知の創成に貢献すべき時にあるといえます。一般社会とのコミュニケーションを密にしながら、人類のグローバルな活動としての基礎科学の推進にアジアのリーダーとしての責務を果たしていきたいと思います。
- 永江 知文
- NAGAE Tomofumi
- (第75期 会長任期:2019年3月31日より2020年3月31日)