会長メッセージ

着実に、そして夢のある発展を

日本物理学会がこの数年間で特に注意を払ってきたこと、そして、この一年間にさらに力を尽くしたいことを述べていきたいと思います。先行きが見えに くい社会変動の中で、物理学会理事会では、すべての活動の意義と施行状況を見直す作業を進めてきました。諸活動の確認とともに、新しい流れに対応する準備 を行っています。その背景の一つには、学会の経済的基盤の問題があります。会員の皆様からの会費を、効率よく最大限に活用することを絶えず検討 してきました。営利団体ではありませんから、黒字を出すことが目的ではありません。一方、新しい事業を行うには財源が必要です。また、タイミングを逃すと その投資も効果が半減します。この視点から、出版と電子化関係で特に、先行投資を行いました。そうした見直し作業の中で、実際には制定されながら実行され なかったこと、または、継続されなかったこと、などを再発見することもできました。例えば、「名誉会員」は1984年 3 月以降、この20年間どなたも推薦されていません。
2005年は、世界物理年(World Year of Physics)です。日本物理学会においては委員会(WYP2005-JPS)を設け、企画立案にあたってきました。国際連合総会(2004年 6 月10日)で、 2005年をInternational Year of Physics(IYP、国際物理年)とすることが採択・宣言されましたが、既に使用されてきた世界物理年をここでは用いることにします。この一年間、物 理学会の行事・催物には、「世界物理年」と「ロゴマーク」をつけて活動する予定です。物理学とは何か、また、物理学の果たす役割は、などを説明する絶好の 機会であると考えます。社会との連携を重視して、広い世代に問いかける活動を実施します。例えば、岡山県立光量子科学研究所主催(8 月)で「物理チャレンジ2005」、年会(東京理科大学、野田、3月)で「ジュニアセッション」、を開催します。これらの新しい試みの中から、将来の恒常 的な活動につながるものがあることを期待しています。

英文論文誌刊行関係では多くの目覚しい発展がありました。ジャーナル(Journal of the Physical Society of Japan、 JPSJ)の編集運営には、2004年9月より、専任編集委員長制を導入しました。電子化出版では、現在JPSJを1981年50巻からオンラインで読む ことができます。引用回数やダウンロード数の増加など、明るい方向に進んでいるのは大変うれしいことです。未だ改革のなかばであり、多くの方々のご尽力に 感謝しております。この 2~3 年が正念場と考えています。電子化に関連して、物理学会の素晴らしい"財産"に気がつきました。日本物理学会の前身、「東京数学会社 (1877-1884)」、「東京数学物理学会(1884-1918)」、「日本数学物理学会(1919-1945)」、の英文論文誌 (Proceedings of the Physico-Mathematical Society of Japan、 1885-など)まで含めると、Physical Review (1893-)よりも長い歴史になります。これらをすべて電子化できたらと夢を持っています。

物理学会の重要な使命の一つに、物理学を学び教育・研究に努める優秀な人材の確保があります。諸団体や他学会に男女共同参画、研究教育環境改善 の推進を働きかけてきました。科学研究費の申請条件、特別研究員の申請資格、の改善などで着実に実を結んでいます。若手研究者には、急増するPD職と急減 する助手職のアンバランスが深刻な問題になっています。物理学を担う人材をどのように育成し確保していくかは、物理学のみならず、我が国の基礎科学にとっ て大きな課題です。また、物理学の発展にとって、研究費を確保していくことも、大きな課題です。大学、研究所、科学行政機構、が足早に変革する中で、物理 学会も基礎科学振興の新しい仕組みを積極的に提案するべきでしょう。

物理学会は、最近締結した香港、台湾を入れて、10カ国・地域との間に協定があります。私自身は、むしろ、その数の少なさに驚きました。外交的 意味しかないようなものを、いくつも増やしても仕方がありませんが、実際には会員の講演・発表や出版誌の購読など、相互協力・相互恩恵が含まれています。 長期滞在海外研究者や留学生の方々にも便宜をはかりやすいという利点もあります。米国、ヨーロッパの諸学会との連絡を密にするとともに、アジア太平洋地域 諸国の物理学会と強い協力関係を確立することを計画しています。理事会では、AAPPS (Association of Asia Pacific Physical Societies)の活動を見直し、その運営に積極的に参画する施策を進めています。国際連携には個人的な貢献と努力に支えられてきた歴史があります が、学会として対処できる態勢が整いつつあります。少しだけ話題は変わりますが、年会で「英語セッション」を新設しました。これも、理事会が試みている新 しい流れの一つです。

さて、現在の理事会は第60期です。すなわち、日本物理学会も還暦を迎えたことになります。還暦とは、60歳が0歳に戻るというわけで、初心に 帰り活動の意義、目的を見直すとともに、物理学と日本物理学会の更なる発展を企画していこうと考えます。物理学会は物理学を愛する会員の皆様に奉仕する組 織です。一方、皆様も学会に強い関心を持ち、その活動に主体的に参画されるようお願い申し上げます。

(60巻1号掲載:2004年10月20日原稿受付)

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和達 三樹
WADATI Miki
東京大学理学部教授
 
(第60期 会長任期:2004年9月1日より1年間)