会長メッセージ

コツコツ地道に研究する姿勢

日本物理学会は会員の皆様の会費を主な財源として運営され、春・秋の学会を開催し、会誌を毎月会員の皆様にお 届けし、欧文誌J. Phys. Soc. Jpn. (JPSJ) を刊行しています。国内外の社会的要請や会員からの要望により設置された委員会の活動を核にして、14名の理事と副会長・会長が対応しています。第65期 の会長として、以下の3つのことを念頭においてその職務を果たしたいと思います。

1. この一年間、新公益法人制度の情報を入手しつつ、理事会として検討ワーキンググループをつくってその対応を考えてきました。今後4年の間に「公益社団法 人」か「一般社団法人」かのいずれかの申請をしなければなりません。本会の場合、どちらを選択しても、税制面であまり大きな差はないのではないかと思われ ます。一旦、「一般」で申請し、将来「一般」から「公益」に申請し直すことはできます。しかし、逆はできません。「公益」で申請し、それが認められたとし ても、将来公益認定が取り消されますと「一般」に移ることはできず、解散しなければならないリスクがあります。これまでの日本物理学会が運営してきた諸活 動の公益性が損なわれないことを前提に、本年末にどちらかを決断し、来年春の岡山大学での年会での総会に申請の提案をしたいと考えております。実際の申請までにはなお状況を見極める必要がありますが、今期でその大方針は決定する考えです。

2. ノーベル賞に輝く小林・益川理論が掲載されているPTP (Progress of Theoretical Physics) 誌は、その刊行を理論物理学刊行会から日本物理学会(物理系学術誌刊行センター)に移行することを計画しています。その移行時期はまだ先のことですが、 2013年4月を予定しています。これまで何度もJPSJとの統合が議論されてきましたが、実行には至りませんでした。今回の移行計画の主な理由は、年間 の掲載論文数の著しい減少にあり、このままではPTP刊行継続は難しく、日本物理学会が支えなければという強い思いです。ちなみに、小林・益川理論は 1973年の発表ですが、その頃の論文数450編が今日の120編までに直線的に減少しています。そこで、これを契機として、2013年4月から日本物理 学会は物理学の全分野をカバーする2種類の欧文誌を出版したいと考えています。一つは従来のJPSJの大部分を占めていた物性を中心にし、もう一つは PTPに素粒子・原子核・宇宙線等の実験を加えたものです。そのためには、PTPの後継誌刊行を支援するコミュニティを形成する必要があります。学会での フレンドシップミーティング、インフォーマルミーティング、シンポジウム、会誌等を通して、会員の皆様への周知に努め、ご理解とご支援をお願いしたいと思 います。

3. 私達物理学会員の基本姿勢は、コツコツと額に汗して研究することです。幸せは研究成果を共にわかちあう仲間がいることです。教員ならば、学生とともにある ことが最大の喜びです。昨今、大学の法人化や様々な大型の競争的資金の導入で、大学間、研究者間の格差が著しくなったと誰しもが思っていることだと思いま す。国の財政支援で物理学会に設立したキャリア支援センターが最終年度を迎えていますが、学生・若手研究者の就職状況はますます大きな問題です。これから 会誌に「研究費配分に関する教育研究環境検討委員会」の活動が報告されますが、物理学の場合、大規模大学に比べて中・小規模大学の科研費の取得が、他の基 礎科学の化学、生物学、数学に比べて少ないことが気になります。物理学の研究ではそれなりの機器の整備とグループ数が揃わないと研究成果が出せないという ことでしょうか。約3年経つと団塊の世代の教授が退職し始めます。現在55歳以上の教授が全教授の6~7割を占めているのではないでしょうか。この事実 は、物理学分野の活力維持に向けて5年から10年後の研究グループの構成をしっかりとデザインすることが求められていることを示します。全国の支部活動に 参加して、一緒にこれらの問題を考え、より教育と研究に専念できる環境づくりに力を尽くして行きたいと思います。

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大貫 惇睦
ONUKI Yoshichika
大阪大学大学院理学研究科教授
 
(第65期会長 任期:2009年9月1日より1年間)