会長メッセージ
私から会長任期がそれまでの1年から2年になったため、定時総会・理事会の議を経て前期(第71期:2015.3.31~2016.3.31)に引き続いて、第72期(2016.3.31~2017.3.31)も会長を務めます。どうぞよろしくお願いします。 前期の1年間には、梶田隆章会員(東大宇宙線研)がニュートリノ振動の観測により2015年ノーベル物理学賞受賞、森田浩介会員(理研・九大)が113番重元素発見に対する元素命名権の取得と、本会にとって喜ばしい大ニュースがありました。一方、南部陽一郎名誉会員(シカゴ大・阪大、2008年ノーベル物理学賞受賞者)がお亡くなりになり、まさに巨星墜つの感があります。新元素発見と命名権取得は、我が国ばかりでなく、アジア地区でも初めてのことで歴史的な出来事と言えます。一方、日頃慣れ親しんでいる100を越える元素は、欧米露で発見され命名されてきた事実に、歴史の深みを考えさせられます。 日本物理学会は、1877年(明治10年)に創立された東京数学会社に源を発し、東京数学物理学会(1884年)、日本数学物理学会(1919年)と改称し、第2次大戦後の1946年1月に解散するまでの69年間、数学界と学術的に同じ屋根の下で活動していました。そして1946年に今の日本物理学会(4月)と日本数学会(6月)が独立して設立されて以来、昨年2015年で戦前の存続期間と同じ69年を迎えました。すなわち今年2016年は設立70年目、創立から139年目、来年2017年は創立から140年目となります。
このような歴史的節目を迎えるに当たり、理事会や関係委員会で議論し、2016~2017年にわたって次のような比較的小規模の記念事業を行うことになりました。一つは学会誌の4月号から、会誌編集委員会主導の「物理学70の不思議」のシリーズ記事、それと物理学史資料委員会主導の「変わりゆく物理学研究の諸相」を連載します。二つ目の企画は「学会史展示」で、今年3月19~22日の第71回年次大会(東北学院大)の会場において、ポスター発表、企業展示と同じフロアに「学会史展示コーナー」を設け好評を博しました。そこでは創立以来139年の学会史(年表)、設立以来70年の分科名・領域名の変遷と、暫定的に選んだ日本が世界に誇る研究ハイライト(全228件)、そして学会の今を示す会員データ等を展示しました。これらの展示は、年次大会期間中に展示コーナーを訪れた会員だけの目に留まったものなので、来場されなかった会員、ならびに会員以外の方にも紹介すべく、本会のホームページへの掲載等を計画しています。 しばらく前から組織運営をする上でダイバーシティの重要性が叫ばれてきました。政府、地方自治体、教育機関をはじめ、大学、研究機関、会社などの構成員(スタッフ)に多様性を持たせることが、各々のミッションを遂行する上で重要かつ有効であると理解していますが、学会の場合は学会が会員の雇用主ではありません。従って、学会におけるダイバーシティとは、学会の設立目的達成のための各種活動を行う主体である理事会、委員会等の構成員に多様性を持たせることと解釈しています。すなわち、学会活動を推進するための委員会等の新設・改廃、適正な委員数・男女比、バランスの取れた所属機関・専門分野・地域からの選出に注視すべきと考えれば、極めて常識的な考えです。まずは現理事会(役員18名=理事16名+監事2名)が率先してダイバーシティを推進することが重要と考え、前71期より女性理事2名、今72期は4名が就任しました。これまで理事・監事を合わせて2名の女性が務めたことは、前期を含め7期ありましたが、4名は初めてです(女性比 4/18=22.2%、ちなみに女性会員比率は5.8%)。各種委員会の委員構成も、女性委員の積極的な委嘱を行い、所属機関や専門分野に偏りが生じないように配慮しているところです。
一方、ダイバーシティの一環としての学会の国際化があります。しかし、外国人会員増員、大会のセッションの英語化、本会の英文雑誌の国際競争力強化・・・・、一朝一夕には行かない難しい課題が横たわっています。アジア太平洋地区での会員の勧誘や活動がその鍵になるとの認識から、本会を紹介する基本資料である定款・細則・内規(入会手続き)の英語版の作成を前期に開始し、今期の早い時期にはホームページに掲載できる運びとなりました。日本に滞在中の留学生や研究者も対象とし、積極的な海外への日本物理学会の情宣活動を展開すべきと思っています。
さらにまた物理ファンを増やすことが学会のみならず、理科離れの抑制や我が国の科学技術の底上げに貢献するとの思いから、主に中高生を対象としたジュニア会友(仮称)、大学院修了後にこれまで退会していた会員や一般市民の方を対象とした会友(仮称)制度の導入を目指して鋭意検討を進めているところです。
2016年3月31日より2017年3月31日)